アラミド繊維製のiPhoneケースやMagic Keyboard対応のiPad Pro用ケース、ワイヤレス充電器やカーボンファイバーウォッチバンドなど、数々の人気製品で有名なブランドPITAKA。そのCEOとはどんな人物なのか?この記事を読み通すことで、あなたは深く理解できるかもしれない。
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「なぜiPadはワイヤレスで充電できないのか?」iPadを使っている時、そう頭によぎったことはないだろうか。
パソコンのデュアルモニターとして使っているのに、充電を忘れたせいでビデオ会議中にバッテリー残量が少なくなってシャットダウンしてしまったり、ゲームをしているのに、充電ケーブルが指の操作を邪魔してしまったり...PITAKAのデザイナーにとって、これはユーザーからの批判の声であり、製品開発のインスピレーションでもある。こうして2021年、ワイヤレス充電が可能な初めてのiPad mini 6用アクセサリーが誕生した。
さらに2023年3月、PITAKAはバージョンアップしたiPad Pro用アクセサリーの発表会を日本で開催。この発表会に居合わせたForbes JAPANの記者は、製品の開発を主導したPITAKAのCEO James(鄭陽輝)に興味を持ち、特別出張で彼にインタビューを行った。
ここではインタビューの詳細に触れるよりも、才能あるデザイナーであり、PITAKAの精神的存在でもあるJamesについて話したい。もしかすると将来、彼はチームとともに、新製品やその背景にあるストーリーについて、日本市場で語られる日が来るかもしれない。
Jamesとは?
PITAKAの創業者であるJamesは、おそらく皆さんが想像するリーダーとはまったく異なる人物だろう。普段着で社員たちと並んでいる姿は、一目見ただけでは誰がCEOなのか想像もつかない。
( James:右から2人目 )
多国籍企業のCEOとして、Jamesは少しばかり若く見える。1984年生まれの彼は、中国の「80後(バーリンホウ)」の世代に属する。多くの人と同じように、彼は学校に行き、卒業し、会社に入り、真面目に仕事してきた。このまま生きていれば、会社の管理職になっていたかもしれない。しかし今、彼はたった一人で世界的な商社を立ち上げ、ハイテク素材とデザインで勝負し、アクセサリーの分野で創造的な嵐を巻き起こしている。Jamesの人生を変えたチェスの駒とは?
勇気をもって手を伸ばせ、星を捕まえるために
Jamesを知る人なら誰もが、彼が音楽好きであること、そうして好きな音楽がロックンロールであることを知っているだろう。
ロック音楽は80年代に中国に伝わり、草原の火のように広がり、Jamesを含む何千人もの同時代の人々に影響を与えた。Jamesはロック音楽を聴くのが大好きで、作曲、バンド結成、ライブ活動を行うほか、インディーズ・ミュージシャンの作品をリリースするミュージックレーベル「半月弾」を立ち上げた。
(若き日の鄭陽輝さんのライブハウスでの公演シーン)
残念ながら、Jamesは有名なミュージシャンにはなれなかったし、偉大な音楽レコード会社を築き上げることもできなかった。しかし、「半月弾」のホームページで彼らが書いているように、「敢與伸手,方可摘星(勇気をもって手を伸ばせ、星を捕まえるために)」、それこそがJamesが常に成し続けてきた、彼のモットーだと言える。
その後、Jamesは失敗した事業をパートナーから引き継ぎ、独自で会社を経営した。優れた技術を持ちながらも低価格の携帯電話ケースしかできないという中国市場での最も一般的なビジネスモデルを避け、彼は異なるアプローチを取り、自主的な研究開発とマーケティング路線を堅持し、OEM生産(Original Equipment Manufacturer)から自社ブランドを持つ製品開発会社へと改革することに成功した。
(PITAKA製スマホケースの生産シーン)
アラミド繊維を土台に
自社ブランドを持つ会社を作るには、製品こそが核心である。スマートフォンケースの分野の競争は非常に激しく、市場にはデザインが良くて、価格が安い製品が数多くある。どうすればコアな競争力を築けるのか。
Jamesが率いるチームが最初に出した答えは「素材」だった。素敵なデザインのスマホケースは汚れに強くなく、極薄のケースは落下に耐えれず、保護力が強いケースは見栄えが良くない。市場に出回っている携帯電話ケースのほとんどは、何かしらの不満を持つ、多くのユーザーが頻繁にケースを買い替える習慣を身につけている。個々のスマホケースは決して高価なものではないが、購入に費やした時間と蓄積された金額の総計は計り知れない。
では、薄くて軽くて保護力も強く、美しさと耐久性を兼ね備えたケースをユーザーに届けることはできないだろうか。そう考えたJamesは、ケース業界における伝統的な素材を捨て、より高い体験をもたらす新しい素材の探求を始めた。
木、竹、革......数え切れないほどの試行錯誤と模索の末、防弾チョッキや宇宙船の部品など、国防や科学研究の分野で使用されているハイテク素材、アラミド繊維がPITAKAデザイナーの目に留まる。
(染色されたアラミド繊維の糸)
アラミド繊維は、素材の世界で革命を押し進めてきた伝説的な素材である。高強度、高保護性、高耐久性、低密度、軽量、携帯性、耐火性、耐高温性、変形や変色耐性、電波干渉を遮蔽しないなどの長所があり、スマホケースを作るのに最も適した素材である。
2015年、アラミド繊維をコア材料として、深セン市零壱創新科技有限公司が創立した。携帯電話ケースの製造分野にアラミド繊維を導入することは、まさに天馬空を行くような革命である。ハイテク素材に基づく世界貿易地図を作り、ローエンドな素材が市場を独占する構成の打破を目指すことは、大きな賭けであり、Jamesの並外れた大胆さと優れたビジネスビジョンを証明するものである。
行動を極めて、業界をリードする
(アラミド繊維を使った編み物パターン)
第3世代のMagSafe内蔵式MagEZ Case3超薄型スマホケース、Magic Keyboardに対応したシンプルなiPadケースからワイヤレス充電も可能なiPadシリーズ用MagEZ Case Pro、磁石内蔵からMagSafe磁気コイル内蔵磁気吸着式カーマウントMagEZ Car Mount Proへの進化など...PITAKAの公式サイトや公式SNS、さらには企業情報などを見れば、製品の継続的な開発の痕跡を容易に見つけることができる。2015年の設立から8年間、ユーザーのニーズをより満たすべく試行錯誤を繰り返し、アップデートされてきた。
(PITAKAの部分製品)
例えば、MagEZ Case Pro 3 for iPhone 14 は、その快適な使用感と究極の保護性能で日本市場でも多大な人気を誇っている。初代から4つのステップを経て、よりミニマルで実用的な形に生まれ変わった。初代MagEZ Case Pro for Phones(iPhone X/XS/XR/11)は、四隅に外付けエアバッグを備え、アラミド繊維とTPUの組み合わせで保護性能を高めていた。保護性能は高いものの、角の出っ張りやサイドの縫い目の粗い素材が違和感を生み、外観もあまり魅力的ではなかった。この問題をどう解決するかがデザイナーたちの課題となり、PITAKAは長い技術的苦闘の時期を迎えることになった。
(PITAKA保護性高いMagEZ Case Proシリーズの発展歴史)
そして、2022年。ついに特許を取得した「3Dインモールドプロセス」技術が登場し、高温・高圧の方法でアラミド繊維とTPUをあらゆる次元でシームレスに融合させることに成功した。エッジを触り続けても、アラミド繊維とTPU素材の境界線がどこにあるかわからない。ケース全体のデザインはミニマルで美しく、フルラップでありながら軽量なハンドグリップの繊細な感触は完璧にフィットした。
(アラミド繊維とTPUの境界線)
PITAKAは、ユーザーの手に届けられるすべての製品が、チームの100%のこだわりに焦点を当てていることを願っている。これは製品への執着であり、ユーザーへの責任でもある。Jamesはあるインタビューの一部で、「......手触りに影響するかもしれないため、たった1つのエッジを無くすためだけに28もの工程を費やしました。その製品パッケージでさえも、より環境にやさしいサトウキビ繊維へと完全に置き換えるため、3年という時間を投じることをいといません...やることなすこと、すべて誰かに見られていないとできないのなら、そんなの本当は必要ないのです。なぜなら、誰もあなたの人生を俯瞰することなんてできないのだから、あなた自分自身以外は」。
やることを極めて、技術に真っ向勝負を挑むこと、それがPITAKAがアラミド繊維製アクセサリーのリーディング・カンパニーへ日々、成長している理由である。
材料の専門家に成長し、勇敢に変革する
2023年までに、PITAKAはアラミド繊維製造の分野で大きな影響力を持つようになった。しかしJamesにとって、アラミド繊維ガジェット製造のトップスペシャリストであるだけでは十分ではない。常に創造的な仕事に取り組み、新製品や未知の領域に挑戦し続けることが、彼の日常業務の一部である。
2023年は、PITAKAにとって大きな変化の年である。この年、PITAKAはアラミド繊維のデザインをピクセルレベルへと進化させた世界限定「Weaving+」シリーズのケースを正式に発表した。「夕焼け」「ゲーム」「アポロ11号宇宙船」「うさぎ」......抽象的なイメージや具象的なイメージを、アラミド繊維の織りによる表現を実現し、デザインの可能性を広げている。
(初の世界限定ケース・Sunset Moment)
さらにこの年、カーボンファイバーとアラミド繊維の素材の限界を打ち破ることに成功。カーボンファイバーの極限の軽さとアラミド繊維の発色の良さは、真っ黒なウォッチバンドに新たな色彩を与えた。この技術は、「クロマカーボン」と名付けられ、ますます多くの製品を生み出している。
(Dreamland ChromaCarbon Band for Apple Watch)
PITAKA本来のコンセプトとは何の関係もないようなことをなぜやりたがるのか、成果はほとんどないのではないか。そう思う人もいるかもしれない。しかし、PITAKAにとって、新しいことに挑戦することなくして、会社の存続はない。必死の思索の中に新たなひらめきや方向性を見出し、勇気を持って試行錯誤を繰り返すことで正解を見出す、これがJamesの行動法則なのだ。
先の問いに戻るが、この若い起業家の人生の軌道を変え、複雑な国際情勢と危険なビジネス競争の中で多国籍企業を率いる原動力となったきっかけは何だったのだろうか?
「半月弾」のホームページのスローガン、「あえて手を伸ばせば、星を拾うことができる」、あるいは会社の玄関の壁に掲げられているPITAKAの企業価値、「主流に従わず、人と違う自身であれ」、これらの言葉の背後に見え隠れするのは、Jamesの個人的な信念と決意がある。それが長く続くことで、時代の波にいち早く乗り、毅然として進んでいくチームを導いてきたのである。
ところで、2023年には才能あるアーティストたちの共同スタジオ、PitaStudioが正式に登場した。これは、PITAKAの天才的な創造力に新たな境地を示すものである。
さて、Jamesは次にどんなサプライズをユーザーにもたらしてくれるのか?乞うご期待。